消える酒場・残る酒場。
消える
世の中には消えて無くなってしまう酒場がある。
例えば以前紹介した盛岡の『とらや』がそうだ。何回か伺っていたお店にもう行けなくなるというのは随分と寂しいものだ。特に気に入っていたなら尚更だ。
事情は色々なのだろう。後継者が居ないというのが1番多いのかもしれない。これはもう酒場に限ったことではない。
残る
ただ、中にはそのお店の常連客だった方が引き継ぎ絶滅させずに続けているようなお店もある。以前伺ったことがある長野県松本市の今は縄手通りにある『鳥富』はまさにそうだ。
昭和44年創業の老舗だったが、店主の体調不良で一度閉店。その時の常連客の一人が何とかこの味を残したいと、秘伝のたれと店名を受け継いで新たに店を出して復活させている。
後継者が居ないのではなく再開発でなくなることもある。逆に、その再開発の波を超えて歴史を更に積み重ねているお店もまたあるのだ。
見事なまでに再現された「明治屋」
あべのウォークの異空間
それが以前は天王寺駅前スクランブル交差点から阿倍野筋を堺方向へ進行方向右手の通りを10分ほど歩いた場所にあった創業昭和13年の『明治屋』がそうだ。
平成22年10月に再開発の際に1度閉店して翌年の4月に『あべのウォーク』1Fで以前のお店をそのまま再現して営業を続けている。
周りにも飲み屋も含めて様々な飲食店が並んでいるが、このお店のところだけはなぜか違う空気が流れている感じだ。
以前と変わらない店先
例えば店の前には二台の自転車が停められている。よく考えたらここまで自転車で来る客が居るはずもなく、これも再現の1つなんだろう。
以前のお店には伺ったことはないが、旧店の写真を探して見てみる限り、どう見ても全く同じなのだ。まず外観からしてそうだ。大概の写真には店先に自転車がやはり置いてある。
茶に白抜きでそれぞれ、真ん中に大きく『酒』、右に『瓢箪』の絵、左に『明治屋』の文字が入った袋仕立て六枚巾ののれんも同じだ。
木製の白い『酒明治屋』の文字が浮き出ている吊り看板も、緑色の屋根の付いたいかにも年代物の四面看板も引き戸も格子の窓もその下のレンガ風の外壁も全く変わっていない。
店内もまるで昔のまま
店内も同じで、カウンターやテーブルや椅子も、天井角の『常富大菩薩』の提灯と神棚も、大きな時計も、日本酒の樽も焼酎佐藤の甕も、銅の酒燗器もみんな同じだ。
紅白座布団の上の牛の置物も、お品書きの黒板も、その上のお酒の銘柄の黒い札も見事なまでにそのままだ。
この新しいお店を以前のお店に通っていた方々はどう感じたのだろうか?多分そのまま古いものを持ってきたようなので、多くの方は喜んだに違いないと思うが…。
まあ当事者ではないから本当のところはわからない。それに時間が経過すれば感じ方もまた変わっていくだろうし何とも言えない。
ただいずれにしても、『あべのウォーク』の中にあるお店とは思えない雰囲気は本当に素晴らしい。居るだけでも楽しくなる。そういう意味では東京根津の『鍵屋』に近い。
「明治屋」に入る
そんな明治屋ののれんをくぐり、木戸を開けて中に入る。左手にはコの字カウンターが、右手にはテーブル席が、その奥には本当に小さな小上がりがある。
どれも昔ながらの年季の入った色だ。昔っぽくつくっているいるわけではない。本物の、しかも清潔な古さだ。
基本全面喫煙可
煙草を吸うかどうか聞かれて数と答えるとカウンターの手前の方に席を指定される。形ばかりとは言え、吸う客と吸わない客を一応分けているのだろう。
まあ隣で吸われるのと離れているのでは多少違うだろう(は吸う人間の理屈だろうが)し、こちらも隣の方が吸っていれば気兼ねなく火をつけられる。
何を飲むか?
昭和の雰囲気まずはビールから始めても良いし、日本酒も各地のものがそれなりに揃っている。樽酒から注がれチロリで温められた熱燗を屋号の入った徳利と猪口で飲むのも良い。
この徳利と猪口がまた良いのだ。何とも言えぬその姿は美しいとすら感じてしまう。家に欲しいくらいだが、まさか分けてはもらえないだろう(さすがにそんなこと言いだせない)。
何を食べるべきか?
黒板に書かれたお品書きを眺めながら何を頼もうか考える。悩んでいてはいけない。飲み物がきたら即注文をしたい。
迷ったらなら、最初は豆腐あたりが良いだろう。時期によって『湯豆腐』、もしく『冷やっこ』。出来ればここの湯豆腐は1度は食べてほしい。お出汁がなかなかいけるのだ。
そして『しゅうまい』も外せない。しゅうまいとはいっても普通のしゅうまいとはちょっと違う。薄焼き卵で包んだものでこれも予想以上に美味しい。
『だし巻き』もちょうど良い具合の味付けで、一緒に付いてくる紅生姜と一緒に食べるとこれがまた良いのだ。
暑くなると『そうめん』があったりする。これもお出汁がやはり美味しくて、帰る前の最後の〆にはちょうど良い。
焼いたのではなく、『あなごさしみ』も触感がコリコリとしていてこれもなかなかイケる。お酒にはもってこいだ。
何て言うこともないがどこにでもある『ポテトサラダ』。でもこういうのがちゃんとあるのはやはり嬉しい。
あとは『鰻の肝』も捨て難い。
他にもその時その時で色々と安定した味の料理が色々と出てくるがどれも安い上に美味しい。まさにこれぞ昭和の大衆酒場。
居心地も雰囲気も抜群
しかも心地良く雰囲気も抜群だから言うことはない。一人カウンターで文庫本を読みながら飲んでいる方をよく見掛けるが、要はそういうお店なのだ。
たまにここの店員さんのことを少しばかり悪く言う方が居たりするが、全くそんなことはない。そう思うのは、多分何かこちらに問題があるのかもと考えた方が良い。
そして実際にそういうことなんだろうという場面には時々遭遇する。でも当たり前のことだ。それがある意味このお店で感じる品格のようなものを保っているのかもしれない。
「明治屋」アクセス・営業時間などなど
最後に「明治屋」の基本情報を。
住所:大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-6-1 ヴィアあべのウォーク 1F
電話:06-6641-5280
営業時間:13:00~22:00
日曜休
その他:全面喫煙可
おひとりさま居心地レベル:★★★★★(5★満点)
夜仕事が終わってからしか行ったことがないので知らなかったが、実は以前の店舗と同じで昼間の1時から営業している。1度くらい昼間に行ってみたいものだ。
明治屋 (居酒屋 / 天王寺駅前駅、大阪阿部野橋駅、阿倍野駅)
夜総合点★★★★☆ 4.5
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