磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君がありと言わなくに
これは万葉集の中の大伯皇女の一首だ。謀反の罪で処刑された弟の大津皇子を偲んで詠ったもの。
岸のほとりに咲いている馬酔木を手折って君に見せたいと思っても、見せてあげる君に会ったとは誰も言ってはくれない。
と言う感じだろうか。
この頃は誰かが亡くなった際、その人が夢に出てきたり、その人の気配を感じたりした、と言って肉親を慰める風習があったそうだ。
ただ謀反で処刑されただけに、この弟には誰も会ったとは言ってくれないと言う非常に哀しい内容である。
甲府「馬酔木」
さて、この歌に出てくる『馬酔木』は字の通り、馬がこの葉を食べると脚がしびれて動けなくなるところからこの名前が付けられたと言う説がある。
そんな『馬酔木』をお店の名前にしているバーが甲府にある。
甲府に行くと必ず先ず『どてやき下條』↓に行って、『くさ笛』↓に行って、最後にこのバーに行って、という基本コースがあった。
自分一人だったらここに辿り着くことはなかっただろう。最初はくさ笛で知り合った方に連れてきてもらった。
アクセス
甲府駅からなら歩いて15分くらいだろうか。『春日モール北』の信号となぜか『春日あべにゅう南』の信号を結ぶ通りがある。
『春日モール北』からその通りを歩いて行くと左手に『春日ビル一番街』という看板が見えるはずだ。
細くて暗い裏路地に入るのは初めてだと躊躇するかもしれないが、そこを入っていく。
すると赤地に白い文字で『地下バー街』の看板がある。よく見ると矢印になっていて、そこには螺旋階段。ここも暗め。
下りて行く階段の壁には白地に赤い文字で『馬酔木』と書かれた丸い看板。他にもいくつかあるのだけが、そこしか電気は付いていない。
地下バー街とは言ってもこのお店しかもう営業していないようだ。知らなければこの階段を下りることはないだろうという雰囲気。
階段を下りた地下1Fの廊下も暗めだ。その廊下の左奥にそのバーはある。重厚な木の扉に箱文字で『馬酔木』。これを開けるのにも最初は勇気が要る。
というわけで数々の難関を突破して辿り着くのがこのバーなのだ。
但し、中に入ればこじんまりとしたステキな空間が広がっている。
店内
お店は決して広くない。左手にカウンター、右にテーブル席。せいぜい15人ほどしか入れないスペース。
目を引くのは弧を描く天井と奥にあるボトルキープする場所らしい番号が振られている小さな丸い木の扉が横6×縦3=30個並んでいる様子。
こんなところにこんな素敵な場所があるんだなと普通に感動してしまうのは、お店の中と外のギャップがとにかく激しいからだろう。
メニュー
カクテルでもウイスキーでもお好みのものをどうぞ。
ここではマスターと会話をするのが楽しい。この広さだから余計にそうなる。昭和39年の東京オリンピックの頃は東京に居たそうだ。
このお店は創業してもうそろそろ50年近くになるはずだ。話の引き出しが多いから会話も楽しい。
コースターとマッチとボールペンと
何回か通った中でマスターには色々と頂き物をした。最初はコースター、そして今はもう作っていないマッチ。どちらもレトロな感じで素敵だ。
それとボールペンも。ちゃんと店名が入っている。ちょっとしたものだが何故かとても嬉しくなる。
これを眺めると、当時の楽しかった会話や、他のお客さんや、ここに連れてきてくれた結婚したてなのに飲み歩いている女の子を思い出す。
「馬酔木」基本情報
最後に「馬酔木」の基本情報。
住所:山梨県甲府市中央1丁目15−9
電話:055-233-3443
営業時間:18:30~24:00
日曜休
その他:全面喫煙可
おひとりさま居心地レベル:★★★★★(5★満点)
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