今回は以前紹介した『元祖どてやき下條』と共に、甲府の大のお気に入りのお店。
甲府おひとりさまおススメ有名店「くさ笛」
最近は殆ど行く機会がないのだが、ここはどうやら有名店だったことをあとから知った次第。
テレビなら『吉田類の酒場放浪記』や『太田和彦の日本百名居酒屋』やNHKの『ひるブラ』。雑誌だったら『Pen』、『文藝春秋』、『週刊文春』。
本なら太田和彦氏の『居酒屋百名山』や最新の『居酒屋味酒覧』、大竹聡氏の『もう一杯』などなどあちこちで紹介されているようなお店だ。
「くさ笛」を有名にした張本人は多分女将の樋口のお母さん
初めて訪れても、もう何回も通っているような気分にさせてくれるのが、「お母ちゃん」と皆に親しまれている樋口東洋子さん。
年中着物に白い割烹着姿のこの名物女将がこの店を有名にしたと言っても良いだろう。
それでこのお母ちゃん、前回の東京オリンピックの時には、既にこのお店のカウンターの向こうに立っていたというのだから驚く。失礼ながらそんなご年齢とは思えない。
ここでは写真は載せていないが、検索すれば笑顔の素敵な女将の姿がいくらでも出てくる。
明るくて気さくでさばさばしている女将はとにかく客を楽しませてくれる。手作り感満載の料理は美味しいし、話も面白いし、客捌きも上手い。素晴らしきエンターティナーだ。
2020年に再び開催される東京オリンピック、そこまで頑張れたらね~なんておっしゃっていたが、果たして元気にされているだろうか?思い出すととても会いたくなる、そんな女将だ。
オリンピック通りにある「くさ笛」
最初このお店に一発で辿り着くことは難しいのではないだろうか?実際何回も行っているにもかかわらず、いつもなかなか辿り着けない。そこからこのお店の楽しさが既に始まっている。
場所は甲府駅から15分弱くらいだろうか、昭和39年に開催された東京オリンピックにちなんで名付けられた飲み屋小路『オリンピック通り』にある。
オリンピック通りの看板は何故か「M」がない!
岡島百貨店の南、かすがもーる入口から歩いて行くと左手の細い路地に『浅草飲食店街』の看板が見える。更に進み『銀座通り』を左に見ながら先へ行くと『開発通り』の看板。
その先に黄色地の小さな看板『よつば屋』と出ているラーメン屋のところに『オリンピック通り』の入口看板を見つけることが出来る。これを見逃すと大変だ。
その看板だが、何故か『OLYPIC STREET』となっていて『M』が抜けている。ワザとなのか単なるミスなのか?はわからないけれど、そのままで放置されているのがちょっと面白い。
ディープゾーンの中の賑やかな一角が「くさ笛」
静かで薄暗い小路の中を進んで行くと左側にこのディープゾーンの中にあって賑やかな一角が存在している。それが目指す『くさ笛』だ。
看板は緑に白い文字で『銘酒コーナーくさ笛』と書かれている。『銘酒コーナー』という響きがなんだかとても良い感じだ。
お店の入口は横に長く縄暖簾と赤提灯が並んでいて、引き戸が解放されているのでどこからでも好きに入ることが出来る。空いているなら向かって左のが良い。女将との距離が近くなる。
店名は島崎藤村「千曲川旅情の歌」から?
このお店の名前、『くさ笛』は島崎藤村の『千曲川旅情の歌』の一説、
暮行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛 千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ 濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む
からとられたのだろう。
明治38年に発行された『落梅集』に収められた詩で、『鯉のぼり』や『浜千鳥』や『靴が鳴る』などの弘田龍太郎がこの詩に曲を付けているものは有名だ。
「くさ笛」は横一直線のカウンター
お店の中に入ると言っても、一歩踏み入れたらもう椅子だ。引き戸と椅子の間の隙間は殆どない。当然テーブル席はない。横一直線のカウンターのみだ。14.5人くらいは入れるだろうか。
カウンターの向こうでは名物女将とバイトの女性との二人でお店を切り盛りしている。棚には様々な日本酒。白・黄・青などの紙にマジックでが書かれたメニューが何だか良い。
太田和彦氏や吉田類氏や角野卓三氏のサインとスナップが左の壁に無造作に貼られているのもこれまた良い。
キレイでオシャレでとは全くいかないが、この雑然とした雰囲気は却って落ち着く。なにしろ前回の東京オリンピックに生まれた店だ。歴史が違う。
「くさ笛」メニューあれこれ
料理で使う食材の一部(春なら山菜、秋ならきのこ)は店が休みの週末に国の特別名勝にも指定されていて『日本一の渓谷美』と言われる昇仙峡の方で自ら収穫してくるそうだ。
これを楽しみにやって来る人も大勢居るだろう。以前伺った時に、ここで出される食材のきのこなどを写真に収めている方が居て見せて頂いたが、かなり色々な種類があるみたいだ。
料理
ここで食べるべきメニューの筆頭に挙げられるのが、期間は春~夏限定だが『サンショウ冷奴』。絹豆腐に山椒の若芽を醤油で漬けたものを乗せた絶品。
これがとにかく美味しい。当然女将が自分で漬けたもので夏の終わりと共になくなってしまうのが残念だ。この醤油漬けだけを頼んでみたらちゃんと応えてくれるのがここの良さ。
他にも冷奴に色々乗せたものがあるのだが、それらもやはり美味しい。
もう一品挙げるならやはり『手作りくさ笛コロッケ』だろう。つくり置きではなく、注文を受けてから衣をつけて揚げるからサクサク。
一緒に添えられてくるキャベツも事前に用意されたものではなく、その場で注文毎に刻む。だからこちらもシャキシャキとしていて美味しいのだ。
夏なら〆には『おざら』が良い。冷たい麺がツルツル気持ち良い。
そして忘れてはならないのが春なら山菜。タラの芽、フキ、わらび、ぜんまい、うど、つくし、セリ、コゴミ、タンポポ、ノビル…その時々採れたもので違う。
それらを天ぷら、おひたし、からしあえ、卵とじなど色々な調理で食べさせてくれるのがとても嬉しい。やはり天然の採れたてのものは味の濃さが違う。
これは秋も同じだ、天然の知らないようなきのこまでが籠に沢山積まれていて置いてあり、それらを使って様々な秋の味覚を楽しませてくれる。
その季節採れたもので料理が変わる。行ってみないと何が食べられるか?はわからないというのも、このお店に行く楽しみの一つだ。
その時のおススメを書いたホワイトボードには手作り料理が色々書かれているので、そこから好きなものを食べれば良い。外れはない。あとは女将さんが色々おススメしてくれる。
お酒
カウンターの後の棚に並んでいる日本酒の他に冷蔵庫で冷やしているものまで、『銘酒コーナー』と謳っているだけあってその種類は全国のものがあって多い。
ただ、せっかく山梨なんだから地元のものを飲みたい。そうなると『春鶯囀』は飲んでおきたい。『しゅんのうてん』と読む。寛政二年、1790年創業の萬屋醸造店のお酒。
六代目が与謝野鉄幹・晶子夫妻と親交があり、二人が訪れた際に詠まれた歌、
法隆寺などゆく如し 甲斐の御酒 春鶯囀のかもさるゝ蔵
からとられたものだ。
他にも『七賢』やら『大冠』やら『笹一』やらと色々あるので、お店の方と相談しながらお好みに合わせて飲むと良い。
まとめ
ちょっと飲みたい時、もう少し飲みたい時には最高。
自分の場合は『どてやき下條』の後に行くスタイルが結構気に入っている。
一人でゆったりではなく、知らないご常連さんや旅の方を交えて女将さんと楽しくやりたい時には最高のお店だ。是非行ってみて下さい。
「くさ笛」基本情報
最後に「くさ笛」の基本情報。
住所:山梨県甲府市中央1‐20‐23
電話:055-232-3948
営業時間:17:00~23:00
土・日・祝日休
その他:全面喫煙可
カード不可
予約不可
おひとりさま居心地レベル:★★★★★(5★満点)
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