今回は生酛と山卸廃止酛
知っている方が楽しいし美味しいだろうけど、結構日本酒に関する様々な言葉って、何となく聞いたことはあっても、それがどういうこと・ものなのか?は意外に説明できなかったりする。
なので、もっとわかり易く簡単に楽しく美味しくなるように、と考えたこのシリーズ。今回は『山卸廃止酛』について。
以前紹介した『旭興 辛口 純米吟醸 山卸廃止もと 八溝杉木桶仕込』にあった用語だ。実際に呑んだお酒で振り返っていく方が説明しやすいからね。
そこでも少し書いたけど、『山卸し廃止酛』は『山廃仕込み』のこと。『山廃』という言葉は何となく聞いたことがある方も多いのではないだろうか。
日本酒をつくる工程のうちの1つが酛=酒母づくり
そもそも日本酒をつくる工程は大きくは3つに分けられる。
・麹づくり
・酛づくり
・醪づくり
の3つだね。
この中の『酛づくり』とは、『酒母づくり』のこと。つまり『酛=酒母』となる。
では『酒母』とは何か?となるが、これは文字通り『日本酒の母=日本酒をつくる土台となる液体』のことで、蒸米・麹・酵母・水・乳酸によってつくられる。
この酒母でアルコールを生成するための酵母を大量に培養するのだ。その酵母は酸性に強いが微生物や雑菌にはすこぶる弱い。なので酒母を酸性に保つためには乳酸が必要になる。
酛=酒母のタイプは大きく2つに分かれる
その乳酸をどう得るか?で酒母のタイプは大きくは2つに分かれる。
・速醸系酒母
・生酛系酒母
の2つだね。
1つ目の『速醸系酒母』は、人工的に作られた乳酸を用いた酒母のことで、1910年(明治43年)以降の主流になっている。
もう1つの『生酛系酒母』は、酒蔵の中に生息する自然の乳酸菌を取り込むことによって造られる酒母のこと。速醸ができる以前はこのスタイルで日本酒はつくられていたわけだね。
速醸のものは人工的だから安定かつ効率的に酒母がつくられる。結果、淡麗な傾向となる。逆に生酛は自然の中で生き抜いている乳酸菌を使うから速醸のものよりも濃厚かつ複雑なものになる。
どちらが良いということもないだろうが、やはり濃厚かつ複雑な味わいが好きだったら、知らない間に生酛系酒母のものを好きになって選んでいるかもしれない。
生酛系酒母で山卸を行わないものが山廃
それで、この生酛系酒母を使って、伝統的な『山卸』という作業を行うものが『生酛』とか『生酛づくり』と呼ばれるお酒。
この『山卸』とは、酒母を作るタンクに入れる蒸米を、あらかじめ櫂ですり潰す作業のこと。
何故先にすり潰しておくのか?というと、そうすることで米が溶ける糖化の時間を短くできるわけなんだ。
その山卸の工程を踏まないものが『山卸廃止酛』。
そもそも山卸が行われていたのは、米がお酒造りに適していなかったり、精米技術が未熟で、糖化までの時間が長く雑菌などに侵されて酒母が悪影響を受けるリスクが高かったから。
今では酒造好適米も発達したし、精米機の機能も向上したし、糖化力の強い麹菌も発見されているから必要なくなってきている。
それでも味わいに違いは出るわけだから、生酛づくりにこだわる蔵もあるのだ。
というわけで…
いずれにしても、生酛系酒母でつくられるという意味では、生酛づくりも山廃も同じだが、その違いが山卸をするかしないかで分かれるということ。
そして、山卸をしなくても生酛系酒母でつくられる以上、その味わいは濃厚かつ複雑なものとなるということだ。
クリアな感じが好きなら生酛系ではなく速醸系、力強く濃厚で複雑な感じが好きなら生酛系ということだね。
このことをお酒を選ぶ時の基準の1つにして、自分好みの美味しいお酒に是非巡り合ってほしいものだ。
Comment